結月ユキの怪談（結月ゆかりの双子の弟妄想）

怖い話大嫌いな事を隠してる結月ゆかりさんが友人達の誘いを断れず学校の七不思議を一緒に調べる羽目に為り、その代役を弟君に頼んでしまった御話妄想。

　取り敢えず、弟君の名前はユキで。（取り敢えず名前を決めてしまう人）

　期限は10日で、その間は結月ゆかりとして生活する羽目に為ったユキ。（当人は欠席扱い）
　そして放課後は、友人二人と一緒に学校の七不思議スポットを巡る。
　ゆかりを誘った友人二人は完全にモブで、ユキ自身は詳しく無い。
　入れ替わりについては誰も知らない、とユキは思っている。

　巡るスポットは有名な物ばかり。トイレの花子さん、13階段、踊る人体模型に笑う肖像画……。しかし唯の噂と考えていたユキの予想と裏腹に、それぞれで怪異に襲われる。
　トイレに連れ込まれかけ、階段先に首吊り台があり、人体模型に追いかけられ、肖像画と会話し……。
　その事実を伏せたまま、ユキは調査の進展だけをゆかりに報告していく。
　
　4日目を過ぎた辺りから、ユキの報告に変化があった。調査内容に加えて、友人達との会話が事細かに送られて来た。
　それは罪悪感からの行動だった。調査の帰りに自身も知る友人の琴葉姉妹と一緒に下校したが、二人が自分を結月ゆかりと思い、親しく話し掛ける姿に胸を痛めたからだった。
　せめて彼女達の思い出には、姉さんを居させてあげて欲しい。
　報告メールの量が倍増した。

　メール量の増加。
　怪異との対峙。
　そして何より、結月ゆかりの代役としての責任。
　ユキの体調は、徐々に悪化していた。

　何時もと変わらぬ姿を装っているが、古い友人達にはバレバレだった。
　あの二人も、調査を延期しようと言ってくれた。
　だがユキは断った。
　もし延期したら、怖がりの姉本人が怪談を調べる羽目に為る。
　唯の噂じゃない、怪異の出来事を。
　だから止められなかった。
　声の聞こえるがままに。
　
　実はゆかりは一つ、ユキに隠し事をしていた。
　自分達を知る共通の友人達には、入れ替わりを明かしていたのだ。
　しかしその事を、ユキには秘密にする様にと頼んでいた。
　それはホンの悪戯心でも有ったが、その上で、もしもの時はユキを助けて欲しいとも頼んでいた。
　
　まさか本当に怖い事が起きているなんて、ゆかりは思わなかった。
　まさか弟が追い詰められているなんて、ゆかりは気付かなかった。

　古い友人達はユキの消耗に気付いていた。
　しかし、手を出す事は出来なかった。
　入れ替わりを知っている事は秘密だったから、ユキの負担を減らせなかった。息抜きに誘う間もなく、ユキは調査に向かっていた。何より、本当に怪異が起きているなんて思わなかった。

　そして6日目。

　二人の友人は、ゆかりに隠し事をしていた。
　調べていた七不思議は、唯の七不思議じゃない。
　続きが有った。
　その全てと遭遇すると、隠されてた八番目の不思議が明かされる、、と。

　興味本位だった。
　興味本位で調べて、怪異に巻き込まれた。
　巻き込まれたが、何時もゆかりが助けてくれた。
　助けられたから、調査を続けた。
　続けていたら、ゆかりの不調に気付いた。
　気付いたから止めようとしたが、止められなかった。
　止められなかったから、置いていかれた。

　ユキが二人の前から、姿を消した。　

　慌てた二人は、ゆかりの友人であるマキ達に相談した。
　丁度、ゆかりと今後について相談していた矢先の事だった。
　電話越しに取り乱すゆかりを宥めつつ、マキ達は怪談の真実を知る。
　知った所で、何も出来なかった。
　出来なかったが、それでも校舎内を走り回り、ユキを探した。

　ユキは、見付からない。

　気付けばユキは暗闇の中に居た。
　周りを見渡しても何も見えなかったが、それでも目の前に誰かが居ると気付いた。
　声が聞こえた。
　七不思議を解く中で、聞こえていた声だった。
　声は自身の事を闇だと名乗った。
　闇は自身が生まれた理由を話し始めた。

　酷い話だった。
　闇は人々の「8番目の不思議」への想像、興味から生まれた存在だった。
　だが、人々が8番目の不思議に求めたのは謎だった。
　それに8番目の不思議は、必死に答えた。
　だからその不思議は闇に為った。
　何者か、何が起きているのか、さっぱり分からない闇。
　明確な姿が存在しない、謎の存在。
　闇、唯の闇。
　その姿に、ユキは同情した。
　
　闇は静かに呟いた。
　もう闇で居るのは嫌だと。
　だから闇は、ユキを呼んだ。
　すっかり陳腐化し確かめる者も居なかった七不思議に挑む青年を。
　姉に友人に求められるがまま、力を貸してくれる優しい青年を。
　その結果、遂に8番目の不思議に辿り着いてしまった哀れな青年を。

　私を助けて欲しい。
　闇は懇願した。

　闇はユキを飲み込もうとしていた。
　ユキを飲み込み、ユキに為ろうとしていた。
　ユキと為って、闇で無くなろうとしていた。
　それが闇の求めた助けだった。

　そんな事をしても、他人には為れないよ。
　ユキは、結月ゆかりの姿をした青年は言った。

　結月ゆかりの姿に為っても、
　結月ゆかりを演じる事は出来ても、
　結月ゆかりには為れないと、
　とっくに知っている青年は言った。

　ユキは闇の話を聞きながら、闇に懇願されながら、闇に飲まれながら、闇について必死に考えていた。
　必死に考えて、ユキは気付いた。8つ目の不思議が闇に為った理由、ソレを使えば救えると。
　ユキは静かに、優しく、語り始めた。

　七不思議を全て調べると、八つ目の不思議が明かされる。
　それは姿を持たない闇であり、七不思議を解いた者の前に現れる。
　そして其の者の願いを受けて、新たな不思議として生まれ変わる。

　八つ目の不思議と出会った青年は願った。
　この闇と一緒に、日常を歩んでみたいと。

　闇は青年の願いを受けて変わった。
　それは最早、闇では無かった。

　気付けばユキは、夕暮れの渡り廊下に居た。
　二人の友人が、結月ゆかりに置いていかれた場所だった。
　帰って来た。
　疲れを覚え、壁に寄り掛かる。
　ふと手を握られた気がして視線を落とす。
　落として、見詰めて、、困った様に笑った。

「闇の反対だから、光？
　もう少しだけ捻って、あかりとか？」

＜完＞