回想、邂逅。

　
　廃墟の語り場･管理人室が一周年を迎えた日、私達は一つの存在に戻った。
　
　暮森ナオヤ。
　
　速村ヒロト。
　
　廃墟の語り場・管理人室とＭＩＸＩ支部の運営を賄っていた二人の管理人が、本来の姿に、一人の管理人に戻った。
　
　だが、その戻り方に失敗した。
　
　暮森ナオヤの元へ速村ヒロトを融合させる際、一部の意識――本人達が隠したい嗜好情報――が剥離されてしまった。

　速村ヒロト――私――の意識と共に。

　此方の私達は意識の融合こそ成功したが、、やはり一部の情報は”裏設定”として”暮森”の姓の元に封じられた。

　尤も、此方の私はその事実を理解した上で”封印”し、私達は知らぬままに”剥離”して――私自身もされて――しまった。

　だから、私の世界での融合は”融合”ではなく、唯の”吸収”だったのかもしれない。　

　恐らくナオヤも自覚、、あくまで融合では無い事だけは把握していたのだろう。

　此方の私が嘗ての名前「早村ヒロト」を一時的に名乗ったのに対し、私の世界では”暮森ナオヤ”で在り続けた。

　真の一体化で無い事を知りつつ、しかし解決させる事も無く放置し続けた。


　その結果が、、これだ。

　此方の私、、暮森ヒロトは観風との情事の中で、徐々に、自らの内に封じていた残虐性を”加虐”を以て晒し始めた。

　その事に戸惑った暮森ヒロトは、親しい者達に自身の暴走時の制止役――暮森ヒロトを殺害する術――を託した。

　そんな事をしても、根本的解決には為らないと知りながら。

　まあ、今は私の協力で自身の”裏設定”と完全融合してる身なのだから、此方の事は問題じゃない。

　少なくとも、私が辿った未来には決して流れないだろう。


　私の世界で、暮森ナオヤが観風に対して加虐行為を行う事は無かった。

　あくまで普通の、愛を睦みあうだけの夜伽。

　それだけで満足していたし、また幸せだった。

　周りの者達も、その様子を呆れながらも温かく見守っていた。

　平和だった。

　影で。

　ナオヤの剥離していた感情は膨れ続けていた。

　最初に気付いたのは私――同じく剥離されていた速村ヒロト――だったが、気付いたからと云って何が出来るだろう。

　同じく剥離された身で、、せめて誰かに声を送る事が出来れば……。

　そして、遂に感情が爆発した。

　残虐を好む様になったナオヤは恋人を殺し、、続け様に相棒にして義理の息子を殺してしまった。

　私の声に、仲間達の叫びに応える事は無く。

　残る三人の仲間――カナメとカオスと闇丸――は、ナオヤを止める為に戦いを挑んだ。

　だが、止める事は出来なかった。

　爆雷滅射発射後の隙を狙われてカオスが斬られ、スパイラルカノン破壊時の爆発に巻き込まれたカナメが貫かれる。

　この時点で、漸く私の声が、意思が、僅かながらにもナオヤへ干渉出来る様になった。

　そして闇丸は――二人の家族を殺されながらもナオヤを元に戻そうと尽力し、結果、目の前で二人の仲間を殺された初代相棒は――漸くながらナオヤを殺す事を決意した。　

　本気になった闇丸が、ナオヤに後れを取る事は無く、、気が付けばナオヤは地面に倒され、闇丸は最後の一撃を放とうとしていた。

　それを助ける為に、私は反撃しようとするナオヤの動きを封じた。

　叫んだんだ、、今の内に撃てと。

　だが、この行為が最悪の事態を呼んでしまった。

　ナオヤの内に私が居る事を悟った闇丸は最後の一撃を放つ事を咄嗟に躊躇い……。

　一瞬。

　一瞬の隙を突いたナオヤの一撃が、、闇丸の首を跳ばしていた。

　私は思わず叫び……。

　気が付いた時、私は”暮森ナオヤ”としてその場に立っていた。

　先程まで肉体を支配していた残虐な精神、狂気は一切感じず、己の意思で肉体を動かせる様になっていた。

　尤も、時既に遅く、、なのだが。

「やあ、派手にやったねえ♪」

　背後から、声が聴こえた。


＊



　……さて、どうしたもんかな。暮森ヒロトの場合は、自らの加虐性を受け止め、一体化したのだが。



　……。



　オマエは私にとっては、、大事な仲間達の仇でも在る訳だ。



　……。



――スチャ。




　正直、受け入れるのは、、何？



　疾風連弾！！



――ズドドドド！！




　うおっと！？



　……殺す。



　ッ！？



　オマエを、、殺す！



　……何だよ、、まだ殺したりないのか？　仕方が無いな。



――スチャ。




　融合するのは、仲間達の仇を討ってから、としよう！！



　うおおお、、、殺す！！
　
　
＜続く＞